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2007.11.08 (木)

「 福田首相は拉致を解決できるか 」

『週刊新潮』'07年11 月8日号

日本ルネッサンス 第287回

「福田首相は終始にこやかで、ユーモアさえ持ち合わせていました。5年前、冷たい目で私たちに娘の恵子は死んだと一方的に通告したのと同じ人かと、心底驚きました」

 こう語るのは北朝鮮に拉致された有本恵子さんの母、嘉代子さんだ。有本夫妻ら拉致被害者の家族は10月26日夜、首相官邸で福田康夫首相と45分間にわたって面会した。首相は、官房長官だった5年前に、恵子さんら拉致被害者8名は全員゛死亡〟という北朝鮮情報をそのまま家族に言い渡した。あのとき、嘉代子さんがショックで倒れそうになったほど゛無表情で冷たい〟福田氏が、いまや終始にこやかに家族に接したといって、嘉代子さんは驚いているのだ。

 家族会は首相との面会に先だって意思統一をはかった。それは、なんといっても拉致解決の主役は政府でなければ務まらない、政府との対立は賢明ではない、だから5年前のことは質さないという意思統一だった。

 家族側が感情を抑制して臨んだ面会で、首相は幾つか重要な点を述べた。まず第一は「向こう(北朝鮮)におられる方々に一日も早く帰っていただきたい」という点だ。

 救う会常任副会長の西岡力氏は同発言を重くみる。
「つまり、福田首相は(横田)めぐみさんや恵子さんら拉致被害者は生きているという前提で語ったのです。以前は被害者は全員死亡ととれる姿勢でしたから、この変化は家族にとって最重要の点でした」

 さらに福田首相は、現在は日朝交渉にとっていいタイミングだ、北朝鮮が核、ミサイルの開発中止を誓約し、見返りに日本の支援を求めている、時機を逸しないように交渉を進めていく旨も語った。

 45分の面会が終わり、全員が立ち上がったそのとき、首相が言った。
「以前は皆さんの(私に対する)信頼がなかった。対話派か圧力派かと言われたが、政府は(いつも)一体だ。私を毛嫌いしないで下さい」
「それを聞いて、皆、笑いを誘われました。そして私も、ひょっとして、福田さんはそんなに悪い人ではないのかもしれないと、ほんの一瞬思ったのです」と嘉代子さん。

北朝鮮が望むままの展開

゛悪い人〟か゛善い人〟かは別にして、首相の言う゛核・ミサイル問題の進展〟の実態はどうなのか。6か国協議は10月3日に合意文書を発表し、北朝鮮の核問題の解決は「第2段階」に入ったと定義されている。しかし、この合意を最も高く評価したのは、それによって利益を得る北朝鮮と交渉当事者である米国のヒル国務次官補くらいなものだ。

 合意文書で北朝鮮が今年中に゛無能力化〟すると誓約したのは寧辺の5,000キロワットの実験用原子炉、使用済み核燃料棒の再処理施設、核燃料棒の製造施設の3つのみである。他の施設、製造済みの核兵器などについては一切、言及されていない。

 しかも、合意文書の内容をどのように検証するのか、その方法は未定だ。無能力化という言葉も曖昧にすぎる。核に関しては廃棄か維持かしかない。廃棄とは全く使えなくすることだ。たとえば、米ソが軍縮協議で合意した中距離核の廃棄では、全中距離核を莫大なコストをかけて解体し、爆発させた。

 一方、米国と北朝鮮が進めているのは゛無能力化〟だ。ヒル国務次官補はこれを「後戻り出来ないのではなく、戻るのが簡単ではないということ」と語っている。核放棄とは完全に後戻り出来ない状態を目指すとした当初の目的は大幅に後退した。

 もっとおかしいのは核施設から取り外す部品や設備を、北朝鮮の主張で北朝鮮国内に保管することになったことだ。本来なら、二度と使えないように廃棄するか、海外に搬出しなければならないにもかかわらず、北朝鮮内にとどめ置くのだ。北朝鮮が再び、施設を立ち上げ、稼働させることも不可能ではない。

 こんな空疎な合意を米国は評価し、見返りに重油5万トン分の予算2,500万ドル(約29億円)の支出を承認した。テロ支援国家の指定解除も時間の問題とされている。そして、周辺国は真の解決がないままに、米国国務省のペースに引きずられつつある。韓国は10月初旬の南北首脳会談を経て50兆ウォン(約6兆3,300億円)に達するといわれる大型経済支援を約した。中国は9月に重油5万トンを支援済みだ。厳しい制裁を続けているのは日本一国であり、その日本の支援こそが、規模、質において、北朝鮮が最も切望するものだ。

 福田首相は今が交渉の好機だ、時機を逸しないよう臨むと語る。だが、その前に拉致問題の解決、進展とは一体なにを意味するのかを、日本の主張として明確にしておくべきだ。10月25日、参院外交防衛委員会で高村正彦外相は「拉致被害者数人の帰国は、拉致問題の゛進展〟になり得るかもしれない」と答弁した。

拉致解決に信念を持て

 西岡氏が異論を唱えた。

「拉致問題対策本部を設置した昨年9月以来、日本国政府は、拉致問題の゛解決〟とはすべての拉致被害者の生還を意味すると言ってきました。また進展とは、゛解決〟に向けて日朝両国が合意し、具体的な行動が出てくることを意味するとしてきました。明らかに高村外相の答弁は従来の政府の立場とは異なります」

 町村信孝官房長官は高村発言について直ちに、「誤った印象を与える」と苦言を呈した。日本政府として゛進展〟だと評価するのは、単なる「数人の帰国」なのか、それとも「全員の帰国」の合意に基づいた上での第一段階としての数人の帰国なのか。両者は天と地ほども異なる。だが、首相は閣内不一致ともとれる両者の発言に関して「二人の思いは同じだ」と述べ、曖昧な印象を残した。

 5年前とは゛人が変わったような〟福田首相だからこそ、家族会は縋る思いで、首相に期待しようかと思い始めている。しかし調整は得意でも、信念に欠けるといわれる福田氏だからこそ、その外交に不安がつきまとう。北朝鮮に切り崩されるのではないか、米国国務省の゛柔軟路線〟に同調して、結局、拉致問題の解決も出来ずに終わるのではないか。

 一方、嘉代子さんら家族会は、25日、米国大使館に招かれ、家族の考える解決の意味を尋ねられた。その場で、全員の生還と、それに向かっての具体的行動の開始だと明確に答えた。シーファー大使はその家族の思いを汲みとり、ブッシュ大統領に「拉致問題の進展なしに北朝鮮へのテロ支援国家の指定を解除することは、日米関係を損なう」という内容の公電を送った。日本人が拉致されたままの状態で、同盟国として北朝鮮に安易に対処することを諌めたのだ。

「自分の手で解決する」と決意表明した福田首相は、拉致被害の当事国日本がとるべき政策は、米国よりははるかに筋の通ったものでなければならないと自覚すべきである。

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